スマイリーキクチ氏による事実誤認と炎上について（追記あり）

太田プロダクション所属の芸人であるスマイリーキクチ氏。自らネット上のデマで殺人犯に仕立て上げられた経験から、ネットの危険性等をアピールし、書籍を出版したり講演活動をしたりしていらっしゃいます。ところが、ある投稿をきっかけとして「ネットによる被害者」であるはずの彼が「ネットによる加害者」に転換してしまう事件が発生しました。それについて自分の見解をまとめてみたいと思います。

まず、スマイリーキクチ氏は常日頃、このような投稿をして「ネットによる加害者」にならないように啓蒙しています。

ネット社会の今、誰しもが情報を発信できる。悪者に仕立て上げるなど容易だ。デマの怖さは群衆心理、悪に向くと歯止めが効かなくなり、集団発狂に陥ると残酷なことも平気でやる。側から見たら加害者でも、責めた人間は自分はデマに騙された被害者という意識が高い。#クロ現プラス#フェイクニュース

— スマイリーキクチ (@smiley_kikuchi) 2019年3月4日

今や情報はスピードが勝負、信ぴょう性は最後の最後です。

フェイクニュースに騙されたり、デマに翻弄されて加害者にならないためにすること。

① 誰が発信したのか、まずは情報提供者を調べる。

② 証拠の有無を再確認する。

③ ネットから離れて、大勢の意見を聞く。

これは最低限のルール。

— スマイリーキクチ (@smiley_kikuchi) 2019年3月4日

いずれも3月4日夜の投稿です。

そして、それらの投稿の直前にNHKが「不正プログラム書き込み疑い補導」というニュースを流します。恐らく、スマイリーキクチ氏は翌日の朝に目にしたのでしょう。3月5日の朝に、このような投稿をします。

消えなくなる不正プログラムのアドレスをネットの掲示板に書き込んだとして、愛知県刈谷市に住む中学１年生の１３歳の女子生徒を補導。中1の少女が簡単にネット犯罪に手を染めてしまう。もうゲーム感覚なんでしょうね。この現実を大人がどのように受け止めればよいのか。。。https://t.co/ljSHkllPno

— スマイリーキクチ (@smiley_kikuchi) 2019年3月4日

そもそも、NHKの報道には誤りがあり、女子中学生は「不正なプログラムを貼ったわけではなく、それが設置されているサイトへのリンクを貼った」だけなのです。そして、リンクを踏んだ先にあるプログラムは決して不正なものではなく、警告ウインドウが閉じても閉じても繰り返し開くというジョークプログラムだったのです。しかも、そのプログラムは閲覧しているパソコンに悪さをするわけでも無く、ブラウザを閉じれば何もなかったかのように終了するものなのです。私も検証しましたし、情報セキュリティ界隈で有名な高木浩光氏もこのような投稿をしています。

こんなのはネット犯罪ではない。実物を見たらわかる。兵庫県警がおかしいし、そのまま報道するNHKもおかしい。報道に流されず、実物を確認してほしい。https://t.co/S4GvOQGEJx

— Hiromitsu Takagi (@HiromitsuTakagi) 2019年3月4日

これに対して、スマイリーキクチ氏は反論します。

一部の方から「ネット犯罪ではない」という意見がありました。中にはやり方をレクチャーしている人もいました。でも絶対マネしないでください。もし警察に捕まっても「ツイッターに犯罪ではないって書いてあった」は通じません。書いた人達が助けてくれる保証もありません。全て自己責任になります。 pic.twitter.com/ALsz7rZ6M0

— スマイリーキクチ (@smiley_kikuchi) 2019年3月5日

まず、スマイリーキクチ氏が不幸だったのは「高木浩光氏を知らなかった」という事でしょう。あろうことか、スクリーンショットにモザイク加工をして投稿します。本来であればコメント付きリツイートをすべき所、スクリーンショットを貼り付けるという手法を使いました。ここで炎上の火種に油を注いでしまいます。スマイリーキクチ氏よりも影響力のある高木浩光氏を一般人扱いしたため、そして、Coinhive事件では逮捕された側の証人として法廷に立ったにも関わらず「助けてくれる保証もありません」と書いたことで、情報セキュリティクラスタからの投稿・コメントという反撃を受けます。

そもそも、単なるジョークプログラムへのリンクを貼った女子中学生の行為を「ネット犯罪に手を染めてしまう」と犯罪者扱いしたことで、炎上の火種が燻っていたのにです。この段階でスマイリーキクチ氏は「ネットによる加害者」に転換してしまっていたのですが、そこに気付くことはなかったのでしょう。先のような反論をしてしまいます。

だいたい、スマイリーキクチ氏自身が「ネットによる被害者」であった時に、ネット上のデマは迅速に対応しなければ、どんどん拡散して行き手に負えなくなってしまうことを知っていたはずなのに、謝罪し元の投稿を削除するどころか反論してしまったのですから最悪の展開になってしまいました。結果として、女子中学生を犯罪者扱いした先の投稿は「削除依頼には応じないことで有名な魚拓サイト」archive.isで魚拓を取られることになり、事実上の誤認で補導された女子中学生の人生に対して一生傷を負わせることになってしまいました。この記事を書いている段階では十件近くのまとめサイトにもまとめられていることが確認できていますし、この記事のようにブログに個人的見解として記されているものも数件あります。そういう形で女子中学生にとっては最悪の展開となってしまっています。

その状況に対して、スマイリーキクチ氏は翌3月6日朝にこのような投稿をします。

情報を発信すれば自己責任だということは重々承知しております。現状では兵庫県警と裁判所が事件として扱っていますが、今後検察や裁判で冤罪と認めた際に、お許しを頂けたら三名の方に直接謝罪に伺います。これが僕の気持ちです。表現を不快に思われた方々に深くお詫び申し上げます。スマイリーキクチ

— スマイリーキクチ (@smiley_kikuchi) 2019年3月6日

ちなみに、この段階では同時に家宅捜索を受けた大人達は起訴になっておらず、もちろん裁判所は事件として扱っておりません。あと、「今後検察や裁判で冤罪と認めた際に」謝罪すると言っていますが、日本の司法は推定無罪の原則で動いていますので、有罪を前提にしたこのような記述は完全に誤りだと思います。スマイリーキクチ氏が今すぐにやらなければいけないのは、元の投稿の速やかな削除と、拡散してしまったものや魚拓に取られてしまったものを責任を持って削除すること、そして、推定無罪の原則に則って犯罪者扱いしてしまった女子中学生への謝罪だと思います。

先ず隗より始めよと申します。

「ネットによる被害者」を自負して講演活動等をしてきたのなら、その活動に基づいた行動をすべきだと思います。今現在、スマイリーキクチ氏は「ネットによる加害者」です。自ら発信してきた情報に背を向けているのです。彼が信頼を取り戻すには、四の五の言わず、先に述べた速やかな対応をおこなうべきだと思います。

なお、「スマイリーキクチ氏はITの知識が無い」と擁護する声も聞こえますが、それならばそれで「正義漢ぶって」講演活動などせずに大人しくしていれば良いだけの話です。ネットの世界はITとは切っても切り離せない世界です。ITの知識が無いなら黙っていれば良いのです。

【追記 2019/03/07 13:19】

最後の一文についてご批判の声を多数頂いておりますので、書いた意図を記しておきます。

「ITの知識が無いなら黙っていれば良いのです」は何でもかんでも黙れと言う意図で書いたものではなく、今回のように犯罪性に関して不十分な知識のまま「犯罪者扱いするような事」を書くくらいなら、そもそもその投稿をするのを止めるべきだという意図で書きました。スマイリーキクチ氏も「証拠の有無を再確認する」「ネットから離れて、大勢の意見を聞く」と書かれております。ここが実践されていれば、あのような投稿にはならなかっただろうと考えた上で、それらを実践されなかった事で今回のような事態を招いたのではないのかというのが私の見解であり、最後の一文に込めた思いでした。

言葉足らずで誤解を招いた事をお詫び致します。